AI Kill Switch法案(H.R.9917)― AIを「止められる状態にしておく」ことを法律で義務づけ、対象の定義を毎年更新する
国土安全保障法を改正し、対象となる事業者に、対象となる技術を遮断(シャットダウン)できる技術的能力を保持させる法案。特徴は、何が対象かを法律で固定せず、長官が施行から90日以内および毎年、規則で定義を更新すると定めている点にある。
法案の概要(一次情報)
- 法案番号H.R. 9917
- 種別下院法案
- 議会第119議会
- 最新の議会アクションReferred to the Subcommittee on Cybersecurity and Infrastructure Protection.(2026-07-24)
要点
- 2002年国土安全保障法を改正し、対象事業者に対象技術を遮断できる技術的能力を保持させる法案。
- 対象事業者・対象技術の定義は法律で固定せず、長官が施行から90日以内および毎年、規則で更新する。
- 考慮要素に、小規模事業者への過度な負担、国家安全保障(サイバー・化学・生物・放射性物質・核)に関わるAI能力、モデル重みの提供のされ方が挙げられている。
- 2026年7月23日に下院へ提出され、国土安全保障委員会からサイバーセキュリティ・インフラ保護小委員会へ付託された。
- 2026年8月31日時点で当サイトが保持するAI関連法案114件のうち91件(8割)が委員会付託で止まっており、成立したものは記録上ゼロ。
- 対象事業者と対象技術の定義を法律に固定せず、施行から90日以内、その後は毎年、規則によって更新する。
1「止められること」を能力として要求する
AIの規制というと、何を作ってよいか、何に使ってよいかを決める話になりやすい。この法案が求めているのはそこではなく、動いているものを止められる状態にしておくことである。遮断できる技術的能力を保持せよ、という義務の立て方は、性能や用途を評価するのではなく、最悪の場合に手を引ける経路を残しておけという要求にあたる。安全の担保を、事前の審査ではなく事後の可逆性に置く発想といえる。
2定義を法律に固定しない設計
この法案でもう一つ目を引くのは、何が対象かを法律の条文で確定させていない点である。対象事業者と対象技術の定義は、施行から90日以内、その後は毎年、規則によって更新される。技術の中身が年単位で変わる領域では、法律に具体的な線を書き込むと、成立した時点で古くなる。考慮要素にモデル重みの提供のされ方が明記されているのは、公開の仕方によって遮断の意味そのものが変わるためだと読める。
一方で、定義が行政の裁量に委ねられることは、対象になるかどうかが年ごとに動くことも意味する。
3この法案は114件のうち8割の側にいる
2026年8月31日時点で当サイトが保持する米国AI関連法案114件の最新アクションを分類すると、委員会への付託で止まっているものが91件、全体の8割を占める。委員会が報告を指示した段階まで進んだのは14件、本会議の議事日程に載ったのは2件で、成立したものは記録上ゼロである。この法案も委員会、さらに小委員会へ付託された段階にある。
米国では提出された法案の多くが委員会で審議されないまま会期を終えるため、提出されたこと自体は成立の見通しを意味しない。ただし、何が論点として持ち出されているかは、提出の時点で読み取れる。
4定義を法律に固定しない
この法案でもう一つ目を引くのは、何が対象かを法律の条文で確定させていない点です。対象事業者と対象技術の定義は、規則によって更新されます。
技術の中身が年単位で変わる領域では、法律に具体的な線を書き込むと、成立した時点で古くなります。考慮要素にモデル重みの提供のされ方が明記されているのは、公開の仕方によって遮断の意味そのものが変わるためだと読めます。この法案が求めているのは、何を作ってよいかではなく、動いているものを止められる状態にしておくことであり、安全の担保を事前の審査ではなく事後の可逆性に置く発想といえます。
なぜ重要か
AIの規制論議は、作る前の審査に集中しやすい。この法案は動かした後に止められるかを問うており、設計と運用の両方に要求が及ぶ。対象の定義が毎年更新される仕組みは、事業者から見れば「今年は対象外でも来年は対象になりうる」ことを意味し、規制対応の計画の立て方が変わる。
よくある質問(FAQ)
「遮断できる能力」とは何を求めているのですか?
なぜ定義を法律に書かないのですか?
この法案は成立しそうですか?
出典(一次情報)
出典:Congress.gov(米国議会図書館・連邦立法資料=パブリックドメイン)。リンク先は公式サイトです。
- Congress.gov(法案ページ・原文)
- H.R. 9917(第119議会)