開腹せずにカテーテルの先から組織を刷る ― 流れるときは柔らかく、置かれたら固まるゲルをAIで逆算する
米国立科学財団(NSF)は、ハーバード大学に対し、体内でカテーテルを通して組織を造形する新しい生体加工法のためのハイドロゲル複合材を、機械学習と実験を組み合わせて設計する課題に約164万ドルを交付した。せん断を受けているあいだは流れ、静止すると力学的性質を持つという、相反する挙動を狙う。
助成の概要(一次情報)
- 交付額約164.3万ドル($1,643,000)
- 受給機関Harvard University(マサチューセッツ州)
- プログラムOFFICE OF MULTIDISCIPLINARY AC, BIOMATERIALS PROGRAM
- 期間2026-10-01 〜 2030-09-30
- 資金提供米国科学財団(NSF) / NSF
要点
- せん断を受けているときは流れ、静止すると力学的性質を持つハイドロゲル複合材を、機械学習と実験を組み合わせて設計する(交付額1,643,000ドル)。
- 応用先は体内カテーテル生体印刷=開腹手術を伴わずに患者ごとの組織欠損を埋める新しい生体加工法。
- 加工・構造・性質の複雑に結び付いた関係を解きほぐすことが技術面の主眼。
- 表形式の基盤モデルを人が介在する反復的な構造で用い、予測と、不確かさを定量化した条件付き逆設計の双方に使う。
- 実施機関はハーバード大学。2026年9月2日時点で当サイトが保持する記録の州別ではマサチューセッツ州が8件。
1流れてほしい、そして固まってほしい
体の中に材料を送り込んで組織の欠けた部分を埋めるには、材料に相反する性質が要ります。細い管を通るあいだは流れなければならず、目的の場所に置かれたら形を保たなければならない。ハイドロゲルは、せん断(ずれの力)を受けているときと静止しているときで挙動を変えられる材料の候補です。本課題は、その切り替わり方を狙って設計できるようにすることを目指しています。
2加工・構造・性質という三つ組
- 1加工どう合成し、どう組み立てるか
- 2構造多尺度の空隙がどう生まれ、どう変化するか
- 3性質流動の挙動、粘弾性、力学的性質はどうなるか
- 4逆設計用途から出発して、必要な性質を持つ複合材の条件を求める(不確かさを定量化したうえで)
材料科学では、加工・構造・性質の関係を解くことが基本の課題になります。この材料の難しさは、その三つが複雑に絡み合っている点にあります。本課題は表形式の基盤モデルを、人が介在する反復的な構造のもとで使い、予測(この加工でどんな性質になるか)と生成(この性質を得るにはどんな組成か)の両方向に用いるとしています。
3手術をせずに直すという目標
応用先として挙げられるのは、体内カテーテル生体印刷です。開腹手術を伴わずに、患者ごとの組織の欠損を埋める。管の先から材料を送り出して深部の組織を修復するという発想で、材料の側にこれだけの条件が課されるのは、その目標から逆算されているためです。基礎的な材料研究でありながら、応用の形が具体的に定まっているという性格を持ちます。
4人材と普及も含めて
本課題はもう一つの中心的な活動として、AIによる材料設計・発見・実用化を担う次世代の指導層を育てることを挙げています。教育・普及・人材育成の活動は、初等中等教育から学部生・大学院生、さらに一般にまで及び、博物館の展示、学部生の研究体験、大学院生向けの研究発表会、公開講義といった形をとります。
2026年9月2日時点で当サイトが保持するNSF助成120件の実施機関は93あり、州別ではマサチューセッツ州が8件です。金額は確認時点の交付額であり、追加交付や改定で変わることがあります。
なぜ重要か
基礎的な材料研究でありながら、応用の形(開腹を伴わない組織修復)が具体的に定まっている。AIを予測だけでなく逆設計に使い、その不確かさまで定量化するという設計は、材料開発全般に通じる型にあたる。
よくある質問(FAQ)
なぜ相反する性質が要るのですか?
逆設計とは何ですか?
出典(一次情報)
出典:NSF Award Search(米国科学財団・パブリックドメイン)。金額は交付額(obligated)。個人情報保護のため研究代表者名は扱っていません。
- NSF Award(原文・公式)
- NSF Award ID: 2522538